あらゆる世代に絶大なる人気を誇る世界的漫画家・手塚治虫。数少ないダークサイド・手塚治虫の傑作のひとつがこの「人間昆虫記」。この作品が発表されたのは、日本が高度経済成長期の頂点を経て安定期に入った1970年。日本中が好景気に沸いた後の社会のひずみが一気に噴出した年であり、あくなき成長と物質への欲望が人間にとって最も重要なものなのかを、多くの日本人が疑問に感じ始めた時代の始まりでもあった。そのような時代背景の中、手塚治虫がひとりの悪女の生き方を軸に、人間社会のゴタゴタを昆虫世界になぞらえて描いた風刺ドラマがこの「人間昆虫記」だ。 主人公の十村十枝子(とむらとしこ)は、女優、デザイナー、そして作家と、その欲望のまま、まるで昆虫が脱皮をくりかえすように次々と華麗な変身を続ける。しかしそれは彼女自身の才能ではなく、彼女に近づいた人間の才能を完璧に模倣したものだった。果たして彼女は神が作りあげた天才なのか、それとも・・・。ファム・ファタールともいうべき女とそこに群がる男たち。永遠に繰り返す自己と他者への愛情の裏表。「正義」と「悪」が表裏一体の時代に、繰り返さざるを得ない人間の罪。 美波、ARATA、久世星佳、鶴見辰吾、手塚とおる、滝藤賢一、北村有起哉、中村敦夫ほか豪華キャストを迎え、40年の時を経て、人間の「性(さが)」と「業(ごう)」を問いただす究極の人間ドラマが誕生した。